新作こそがベストを証明する充実度。「Van Morrison / Keep it simple」 / 幻巌堂
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Bang時代から数えてソロ名義では35枚目になるという新作は、もちろん期待に違わない。今回もたっぷりVan節が堪能できる。
資本主義が高度化する中で格差の広がりは必然なのかもしれないが、それに階級社会が加わる英国では、深刻さは同時に諦めでもある。そんな権力者(政治家、役人、教育者、宗教者、資本家)たちのつくり出す社会に楔を打ちいれようとでもするかのようなブルーズで、ヴァンの新作は幕を開ける。この流れは2曲目にも続き、権力者に都合のよい教育なんて何の意味もないと、Van節は早くも全開だ。
カントリー風の3曲目、ブルーズィーな4曲目は、息抜きのような夜遊び談話。そして5曲目の「Lover come back」。ここからがこのアルバムのハイライトだ。彼のライフワークともいえる「Irish heartbeat」の観念に通底するアイデンティフィーソングがたっぷり味わえる。ここで呼び戻そうとする恋人とは、愛する人というだけではなく、故郷から受け継いだ尊い血脈でもある。
かつて、故郷北アイルランドの宿命から抜け出そうもがいていたヴァン。そして、その宿命の血を進んで受け入れると、悟りを拓いたかのように音楽そのものを楽しみ始めた彼がいた。難解だった歌詞は解き放たれたようにわかりやすく、しかもより深くなった。もちろんメロディラインも大きく幅を広げたが、ヴァンの個性はいささかも揺るがなかった。
のどかな航海風景を描く「Song of home」は、このアルバムのベストソングにあげたい。長い航海を終えて家路をたどる船の中、自由に海を飛び交う鳥たちを眺めつつ、心に浮かぶのは故郷のメロディ。緊張から解き放たれつつある姿をゆったりとうたいあげるのだが、ここでのヴァンはとりわけソウルフルだ。そういえば、2曲あとの「Soul」では、“ソウルはフィーリング、フィーリングは体の奥底に宿るもの、肌の色なんて関係ない…”と教えてくれる。
アルバムのラストを飾る「Behind the ritual」は、ヴァンの初期の作品「Madam George」をほうふつさせる。彼が再びサイプレスアヴェニューの片隅に戻ってきたかのようだ。
前々作「Magic time」完成後に急逝したギタリスト、フォギー・リトルに代わって、今回のアルバムではカレドニアオーケストラ時代のジョン・プラタニアと、ブリティッシュロックの古参ミック・グリーンがギターに参加している。とりわけ、ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタスからパイレイツという経歴のミックのギターは、充分に彼の経てきた時代を感じさせるが、まだヴァンの世界にしっくりとはまっているとはいえない。新しいツアーメンバーに加わった彼のギターがどんな展開を見せるのか、少し注目しておきたい。とにかく、また私のヴァン・モリスン・コレクションに、傑作が1枚加わった。


