2008年11月21日 (金)

9度目と10度目のGⅠ挑戦、栄光はどちらに。「マイル・チャンピオン・シップ」

Super  エリザベス女王杯はポルトフィーノのスタート直後の落馬がすべて。どんな反射神経の優れた騎手でも絶対に避けられないとの武豊談話を信じるしかない。重量は無くなったものの終始先頭、4角では外ラチいっぱいを回りながらもトップでゴールするのだから、無事なら圧勝していたかもしれない。軽い外傷と疲労は残ったものの、来年春には捲土重来を期してほしい。ポルトに踏まれた痛みが残るという豊騎手。次週JCではメイショウサムソン騎乗を決めた(ウオッカは岩田騎乗)が、今週は一向に弾けないスズカをどう操るのか、汚名返上はできるのだろうか。

 秋のマイル王決定戦、MCS。昨年はダイワメジャーという主役がいたが、今年はそれに匹敵する安定した強さを見せる存在はいない。そんな中で最も期待したいのが、昨年ダイワに首差まで迫ったスーパーホーネットだ。2歳から活躍する同馬は、5歳の今年も安田記念は8着に終わったものの京王杯SC・毎日王冠とGⅡを2勝しており、特に1800mの距離に疑問をもたれた前走の毎日王冠では、府中の長い直線であのウオッカを完封しているのだから凄い。今週の坂路追い切りも完璧。実にGⅠ挑戦は今回で9度目になるが、コンスタントに繰り出すラスト3F33秒台前半の豪脚で栄冠を射止めてほしいものだ。

 2番手はやはり、天皇賞ゴール前であっといわせたカンパニー。この馬も33秒台前半の強烈な末脚を持っており、GⅠ挑戦はホーネットを凌ぐ10度目となるが、栄冠獲得までもう一歩というところまで来ているのは確かだ。坂路で52秒0という破格の時計を出した追い切りも万全。最後の直線、ホーネットとの合わせ馬にでもなれば、実に面白いレースになるだろう。

 牝馬ながら、昨年秋からのブルーメンブラットの充実ぶりというか安定したレース内容は眼を見張るものがある。前走府中牝馬Sでは、休養明けにもかかわらず、カワカミプリンセスを軽くあしらった感さえある強さを見せた。今週の坂路追い切りも文句なく、2走目のポカなどまず考えられない。鞍上さえしっかり乗れば、牡馬2頭と差のない競馬になりそうな気配が漂う。偶然にもカンパニーと同じく、ノーザンダンサーの4×3(奇蹟の血量)という血統も頼もしい限りだ。

 GⅠホース、スズカフェニックスだが、少々ズブくなった今はマイルがちょうどいい距離なのかもしれない。掲示板には乗っても末脚不発で勝ちきれないレースが続いているが、見限るにはまだ早い気がする。はたして武豊の起死回生の一発があるのか。

 最後に穴中の穴ならマルカシェンクに注目したい。前走はわけのわからない惨敗だったが、この馬は展開さえはまればラスト3F32秒台の鬼脚を持っている。全馬まとめて面倒を見るほどの力があるということだ。2歳時には怪物とさえ言われた馬だけに、華麗なる復活を見せても不思議ではない。

 

【マイル・チャンピオン・シップ】

◎スーパーホーネット

○カンパニー

▲ブルーメンブラット

△スズカフェニックス

△マルカシェンク

2008年11月14日 (金)

本来の姿に戻れば無敵のカワカミ。「エリザベス女王杯」

Kawakami_7  府中の直線200メートルをこえるダイワスカーレットとウォッカの内外離れてのたたき合いが、歴史の残る一戦となった天皇賞。そこから見れば1枚落ちは否めないのが今年のエリザベス女王杯だ。上記2頭の不参加に加え、不透明なオークス馬トールポピーが追い切り後に鼻出血を起こしてリタイアするなど、GⅠとしては少し淋しいレースとなった。

 とはいえ、有馬記念に期待抱かせる馬は複数存在するのだから見逃せない。その筆頭が、2度目の骨折休養明けの前走、2着と格好をつけたカワカミプリンセス。今でもデビューから2年前のエリザベス女王杯まで完璧なレースで勝ち続けた強さが忘れられない。追い切りにも迫力が戻り、鞍上も横山典弘なら文句なし、距離もピッタリ、4角好位からの抜け出しで女王復活を強烈にアピールしてほしい。

 対抗には、内廻りとスローペースに翻弄された前走は度外視して桜花賞馬レジネッタ。大外枠になったものの、かえってもまれずに好位が取れるのではと期待したい。マイルとはいえ秋華賞に弾かれた前走は初めての待機策、直線が鮮やかというしかない伸びで快勝したポルトフィーノもほとんど差がなく、首位逆転までありえそうだ。今週の追い切りも、ビデオを見る限りではパーフェクトに近い出来に見える。

 もう1頭、ベッラレイアも忘れてはいけないのだろうが、どうもこの馬は非凡な切れ味を持っていながらもクラスに関係なく勝ちきれない。鞍上の工夫も少し足りない気がする。ここでも確実に掲示板には載ってくるだろうが、勝つまではどうだろうか。これなら、条件上がりだが2連勝と波に乗るアスクビューティに惹かれる。勝ち時計だけなら、このクラスでも遜色はないのだから。

 最後に、三浦皇成騎乗で話題のビエンナーレ。個人的に母フォーカルプレーンの共同馬主だったこともあり、JRAで走る最後の仔だけに、思い入れは強い。彼女にとっては、絶好の3枠。コスモプラチナとの兼ね合いもあろうが、スムーズに先頭に立ってマイペースに持ち込めれば、直線最内であっといわせる見せ場があるかもしれない。まずは無事完走を祈りたい。

 

【エリザベス女王杯】

◎カワカミプリンセス

○レジネッタ

▲ポルトフィーノ

△ベッラレイア

☆ビエンナーレ

2008年11月 8日 (土)

何かが舌にざらついて残る後味の悪さ。「青い鳥」

Photo  さすらいのガンマンのように、心の荒みかけた学校にやってきた手負いの臨時教師が、数少ない弾しか持たない言葉のピストルで、生徒や教師の心を打ち抜き静かに去ってゆく。この映画の構成は、まるで西部劇のようだが、見終わった後には、一滴の爽快感もない。ホントに彼らは変わったのだろうか、またすぐに元戻りなんじゃないのかという思いさえして、徒労のガンマンとでもいいたくなるような後味の悪さが残る。なぜなのか。

重松清の原作は8篇の連作短編からなり、ある高校にやって来た吃音の臨時教師が、数少ない言葉と大海のような心で生徒に寄り添い、彼らの心を普通の状態に戻してゆくというもの。その中で彼が教える、人は1人では生きられないし決して1人ではない必ず誰かが傍にいるという処方箋は、確実に読者の心にも訴えかけてくる。そして、青い鳥を追いかけること、それは常に夢を持ち続けることであり、人間が人間として心地良く生きるための糧であるということに気づかされるのだ。

ところが、表題作のみをベースにしたこの作品には、原作のストーリーに流れる温もりがほとんど感じられない。言い換えるなら、この映画には、人の心をとらえるような脈々とした鼓動が感じられないということ。そしてそれは、主役の臨時教師である村内先生(阿部寛)の描き方、役作りに大きな要因があると言わざるを得ない。まず、彼が吃音であるということの意味。彼が完全な人間ではなくハンディを持っていることはもちろんだが、同時に言葉の持つ意味の重さを示唆するものとして描かなければならないのではないだろうか。そのあたりが大きく抜け落ちているばかりか、映画で描かれる村内は、教員室の中で完全に浮いており、島崎という女教師以外とは最後まで心通うことはない。しかも、島崎先生がどうして村内に敬愛の念を抱くようになるのかさえきっちりと描けていない。せめても、いろいろな角度から村内という人間を見せるという意味で、別の短編のエピソードをいくつか盛り込んだ方が良かったんじゃないかと思う。

巻頭から、どうしてこんなに村内を暗く孤独に描かなければならないのだろうか。それは見終えた今も、疑問のままだ。残念ながら、この映画に描かれる教師にも生徒にも、ほとんど血の温もりが感じられない。まして、そんな人間同士が心を通じ合うなんて信じられない。村内が去った後も多くの教員たちの自己保全は変わらないだろうし、元の担任が戻ってくれば、教室はまた元通りになり、いじめが始まるのだろう、とさえ思えてしまう。後味の悪さの原因は、ここにあるのだ。それにしても、青い鳥ボックスってこの映画の中で、何か意味があったのだろうか。

2008年11月 6日 (木)

結論から逃げるくらいなら撮らなきゃいい。「ブタがいた教室」

Photo_2  ラスト近く、子供たちが屠殺場へ送り出したブタの乗るトラックを追いかけるシーンがかなり長く続く。これほど腹の立つヤマ場を見るのは久方ぶりのことだ。映画はというよりは、監督の前田哲と言った方がいいかもしれないが、彼はこの結末に対して自らの考えであり結論となるものは、ほとんど何も提出せず、語ろうとしない。ただ、流れる時間と目に見えた事実を映してみせただけ。この演出は、作品の最も肝心かつ大事な部分から完全に逃げている。言語道断、卑怯極まりないものだ。

 18年前に大阪の小学校で実際に行われたこととはいえ、それを再現するだけでは映画にならないことくらい、かなりの助監経験のある監督なら承知のことだろう。ならば、少なくともそこで起こった事実に対する自らの考えを踏まえ、反映させた上での映像にならなければ話にならない。キャスティングした子役たちに実際にブタの飼育を経験させたり、脚本を与えず自由に討論させるのもいいだろう。しかしながら、最終結論は教師が出したのであり、そこにいたる教師の葛藤や自分の出した結論に対する生徒たちへの説明がなければ、実際にも物語的にも結論といえるものたり得ない。驚いたことに映画は、その肝心なところをすっぽり落として、生徒たちが涙を流してトラックのブタを追いかけるシーンに逃げるのだ。しかもブタを殺して食べると言い切った少年が先頭に立って涙を流して走るのを見せる。食べる生き物の死を涙という情緒にすりかえる、まったくもって卑怯なこの映像表現には虫唾が走る思いさえした。

 映画の原案になった18年前の大阪の小学校では、ブタを飼い続けるという結論を一旦出しながらも、PTAからの「食べることで命の大切さを学ぶということで飼い出したはず」といった横槍を、担任の教師が受け入れるかたちで屠殺場に送ったのだが、このPTAの行動さえ映画は描こうとしない。やはり、ここでも逃げているのか。

 映画自体が凡庸な取るに足らないものならまだしも、終盤まではそれなりのドラマが展開されていただけに、曖昧なラストを見せられたことで、私にとっては一層腹立たしいものとなった。しばしば画面に現れる、人格を持ったかのように校舎を歩くブタをローアングルでとらえたカットも面白いのだが、ストーリーの流れの中でこれを生かしきることができないまま、結果として的外れなカットとなってしまったのが、この映画のすべてを象徴している。

 余談だが、実際にブタを連れてきた教師(原案となった本の作者)は、この映画を絶賛し命の大切さを考える一助となってほしいなどと言っているが、この映画のどこを見て命の大切さを考えろというのか。この方、小学校の教師を続けることなく、この本をきっかけにどこぞの大学の准教授などにおさまっているのだから何をかいわんやだろう。

2008年10月31日 (金)

今の東映の映画作りを象徴するような作品。「まぼろしの邪馬台国」

Yamatai  大石静って、やっぱりテレビの人だったんだと気づかされた。実にくどい脚本だと思う。巻頭からラストまで、この映画の主人公は宮崎康平ではなくその妻和子であり、吉永小百合の主演作なのですよというシーンのなんと多いことか。言い換えれば、無駄なシーンがどっさり盛り込まれているということ。ある意味、今を読めない東映らしい作品だと言えるかもしれないが。

 例えば、中国から日本に引き揚げ、父の自殺を経験するという和子の子供時代の話。これが、後の話に大きくかかわるわけではなく、伏線にもなりえていない。肩透かしもいいところだ。しかも残念なことに、和子の母を演じる麻生裕未のメイクがまったくといっていいほど戦前の女性に見えない。

 そしてラスト近く、康平が卑弥呼の墓の発掘を目指した場所で倒れるヤマ場で、突然現れる邪馬台国と卑弥呼。いったい何ナノこれ、ドラマぶち壊しじゃないか、と言うしかない。ほとんど起伏のない単調で平凡なドラマを、さらに引きずり落とすようなこの演出。「明日の記憶」(これ見よがしの俯瞰や意味不明のローアングルなどはここでも変わらない)で自らの演出力を勘違いした堤幸彦が、無残にも馬脚をさらしたとしか思えない。康平が倒れるところでエンドクレジットとなればまだしも、オトボケのような卑弥呼や、その後のやたら説明がましい蛇足としか言いようのないお話なんていらない。テレビじゃないんだから。

 ここ

10年ばかりの吉永小百合の主演する映画を見ていて感じるのは、いつも同じことばかりだ。いくら別格の人とはいえ、この役にはお年を召されすぎているんじゃないかということ。今回もそう。和子の役って、薬師丸ひろ子や小泉今日子が最適だろうし、年齢的にもギリなんじゃないだろうか。吉永さんは、前妻を演じた余さん(唯一この映画で輝いていた)より10歳も上なんだよ。私が見ていて感じたのは、正直、齟齬感というよりはもう痛々しさだった。吉永さんが懸命に演じれば演じるほどに、その思いはつのった。小百合さん、お願いだから、自分の演じるべき等身大の役を、今一度見直してください。このままじゃ小百合さんの存在は映画に滅ぼされてしまうだろうし、逆に映画を滅ぼしてしまうことになるかもしれない。

血気盛んな若僧を待ち受ける2頭の女王。「天皇賞」

Vocca  名前はともかく「鼻白栗毛」に「金髪の栗毛」と、菊花賞は絵になる馬の1・2着で決着。手薄いメンバーといわれたものの、1番人気で4角番手差し切りの正攻法で勝ったオウケンブルースリには、来年の凱旋門というのは気が早いかもしれないが、今後も大いに期待したい。

さて天皇賞。最初から結論になってしまうが、メイショウサムソン、マツリダゴッホ、スーパーホーネット、デルタブルースなどの回避したここは、まずダービー馬2頭の勝負と言い切ってだろう。NHKマイルC、日本ダービーをケタ違いの末脚でナデ斬り、秋緒戦の神戸新聞杯も余裕の差し切り勝ち。菊花賞には目もくれないで、最適距離で敢然と古馬に挑んできたディープスカイ。このレースも後方からの直線勝負だろうが、舞台は直線の長い府中コース、追い切りも万全でこれといった資格が見当たらない。中心はこの馬という結論には、いささかの異存もない。スローな流れになっても、ラスト3F33秒台の脚を使えるのもたのもしい。

ディープスカイに差し負けない末脚の持ち主はただ1頭だろう。牝馬ながら昨年のダービーを制したウオッカ。マイルから10Fまでならラスト3Fをコンスタントに33秒台で駆ける力を持っており、秋緒戦の毎日王冠では逃げて惜しい2着。中間も順調で今週の最終追い切りも、栗東坂路で52秒2~12秒5と文句のつけようのないもの。武豊とのコンビでは勝ち星がないが、ここはぜひとも最高のパフォーマンスを期待したい。

春前半は、ウオッカとの勝負付けがついたと言っても過言ではない強さを見せつけていたダイワスカーレット。大阪杯完勝後に出た左前脚管骨瘤のため半年休養しての緒戦となるここは、やはり大きな試練と言えるのではないか。いくら乗り込んだとはいえ、この大きなハンディは如何ともしがたい。見送るのが賢明だと判断する。菊花賞馬アサクサキングス、33秒台の末脚を持つカンパニー、ペリエ騎乗のトーセンキャプテンなど、確かに目移りする出走馬もいるが、直線は2頭の一騎打ちになるとの確信を持った独断を結論としたい。

【天皇賞】

◎ウオッカ

○ディープスカイ

2008年10月24日 (金)

米国は現代の悪魔かもしれない。「悪魔のリズム」

Rythm  タイトルから単純にサスペンスホラー映画などと想像して見ると、裏切られた気分になりかねないが、考えオチの心理ホラーといえば頷ける。映画は、アフガンで誤認連行され拷問を受けたパキスタン系イギリス人の告発によって、世界的な問題となった米軍グァンタナモ基地の収容所を裏から告発する内容を持ったサスペンス作品。キューバ東南グァンタナモ湾の治外法権地にある米軍基地の収容所で、連行したイスラム関係者に対していったい何が行われているのかを米兵側からの視点で描いている。前述の告発をもとに作られたマイケル・ウィンターボトムの「グァンタナモ、僕たちが見た真実」が表側なら、この映画はまさに裏から見た収容所の真実と言っていいだろう。

 ドキュメント風ではなくあえてサスペンス仕立てで描かれており、ハリケーンに紛れて基地から脱走してきた男がハバナの海岸に登場する巻頭からかなりの時間は、この男がいったい何者なのかがまったく明かされない。収容所での拷問や仲間の死の幻影に苛まれ続ける男。見ているこちら側はまず、収容され拷問を受けていたイスラム関係者だろうと想像してしまう。それを裏付けるかのように、男は被害者意識に凝り固まっており、匿ってくれるキューバ人にも時折疑いの目を見せる。しかしながら、幻影と現実の境を曖昧に見せる演出が、同時に、この男に秘められた謎の存在を確信させる。そして米軍関係者らしき白髪の米国人が登場するあたりから、一気に謎が膨らみ、映画全体のおおきな仕掛けともいえる男の謎に対するおおよその予想がつきだす。

 匿ってくれるキューバの女性ダンサーへの愛情からしだいに正気を取り戻してゆく男。2人の奇妙な街行きは面白い。しかしこの恋は現実逃避でしかないということ。男の逃れられない現実が、新たな悲劇を生むこととなる。まさにこれは収容所での拷問にも等しい。ラストで男の謎はいとも簡単に解けるが、そこには暗澹たる現実がひたすら漂い続ける。

 この映画の原案を書き、製作したプロデューサーは「クライングゲーム」の吉崎道代。この人はやっぱり凄い。サスペンス仕立ての展開や大きな謎を核に据えた構成が成功したとはいえないが、作品自体のスピリテュアルと70年代のアメリカンニューシネマをほうふつとさせるラストは捨てがたい。

菊の空にドラゴンが燃えるか。「菊花賞」

Blueslee  岩田康成の好騎乗だけが目立った秋華賞。どうでもいいことなんだけど、皮肉なことにリーマンに投げ出された証券野郎を持ち馬が助けるなんてことになってしまったらしい。こりゃ、馬券が当たらないはずだ。

 さて、クラシック3冠最後の「菊花賞」。ダービー馬は距離を嫌って天皇賞挑戦、トライアル2着の実力馬は屈腱炎でリタイア、皐月賞馬は故障休養中と、少し淋しいメンバーになってしまった。一応の主役は、春は皐月3着ダービー4着と惜しいレースが続いたマイネルチャールズだが、無事出走してきたものの、どうもここ一番の弱さと早熟の感がいなめず、印は見送りたい。

 そこで、最有力候補にとりあげたいのは、神戸新聞杯でゴール前大外を猛然と追い上げて3着に押し上げたオウケンブルースリ。4月デビューと遅咲きだが、初夏から夏への3連勝で一気に主役格まで昇ってきた。2000を越える距離でコンスタントにお終い3F34秒台前半の時計で切れる差し脚がたのもしい。父のジャングルポケットもサンデー産駒では長い距離には融通が利くタイプだ。鞍上の内田博幸も文句なく、宝塚記念に続いて今年2つ目のGⅠに手が届きそうだ。

 対抗にはダービー2着のスマイルジャック。神戸新聞杯の不発は休養明けで度外視ということで、今週の調教フィルムを見る限りCコースでの動きは文句なく出走メンバーで最も好調さが目を引くし、栗東の滞在競馬が功を奏しそうだ。父タニノギムレットから、距離も問題なしと見る。鞍上の小牧太にとっては、不甲斐ない結果となった秋華賞の雪辱戦となる。

 3番手の単穴には、ノットアローン。私の主観かもしれないが、この馬はもっと走っていい器に思えてしょうがない。大きな舞台で一気の激走がありそうな雰囲気もある。前走のセントライトは本番を意識したような中途半端なレースだったが、蛯名の騎乗停止で横山典弘に手替わりしたのが、禍転じて福とならないだろうか。切れる脚はないものの、セイウンスカイのような内ラチ一杯を回っての先行抜け出しを期待したい。

 以下、スマートギアとナムラクレセントの直線の大外一気の差し脚に注目。特に、神戸新聞杯で勝負が終わってから走り出した感があったナムラには、かなり前になるが同じ馬主のキャプテンナムラを少しだけほうふつとさせるものがあった。

 このところあまり本番につながらないセントライト勝ちのダイワワイルドボアは追い切りの迫力がもう一つ。前走を本格化と見るかどうかだが、ここは見送りたい。ようやく間に合ったダイシンプランもこの距離はシンドイ気がするし、3連勝の昇り馬シゲルフセルトの方はデビューから中1~2週の休みなし、使い詰めでの18戦目というのがかなり気になる。

【菊花賞】

◎オウケンブルースリ

○スマイルジャック

▲ノットアローン

△スマートギア

△ナムラクレセント

2008年10月18日 (土)

優柔不断な善玉を糾弾するノーランワールド。

Darkknight  クリストファー・ノーランの創り出すバットマンには、ユーモアの欠片もない。それが後半の単調な展開と相まって眠気を誘った前作とは打って変わり、この続編の展開は息をもつかせない。巻頭から登場するジョーカーはT・バートン版とは全く違い笑える場面は皆無、まさに全編を黒く塗りつぶすかのような悪の仕掛けに翻弄される2時間半。見る者に息を抜く暇も与えないほどにめまぐるしくカットが移り変わり、気を抜けば置いてきぼりにされそうな速さでストーリーは展開する。

人間特有の情というものをスパッと切り落としたところから悪人ジョーカーの役作りが始まったかのように、笑顔も隙も何一つ見せずに部下をいとも簡単に撃ち殺すジョーカーを演じたヒース・レジャー。本人もまさか遺作になるとは思わなかっただろうが、この一世一代の怪演は間違いなく映画史に残る悪党ジョーカーを創出した。そして、冷徹なまでの攻撃こそが最大の自己防衛だという至極まっとうな悪党の論理をほぼ完璧に映像化したC・ノーランには、今さらながら映像作家としての秀でた創作能力を見せつけられた思いが強い。タイトルにあえてバットマンの名を入れなかった理由も明白だ。この作品の主役は、優柔不断なバットマンなどではなく、悪という魔物の恐ろしさを徹底して体現し続けるジョーカーにほかならないからだ。

もちろん、バットモービルやバットポッドによるチェイスシーンも大きな見せ場であり、CGとの融合も見事で圧巻なのだが、それにも増してジョーカーが繰り出す犯罪の仕掛けとその結末には、驚きを通り越して唖然とするばかりだ。フェリーの乗客に委ねられた爆破回避のスイッチの最終決定にいたる葛藤もそのひとつ。C・ノーランはここでは、利己主義、優柔不断という人間本来の弱さを私たちに充分すぎるほどに見せつける。その結末も、実にアイロニーに満ち満ちており、爽快ですらある。

そしてバットマン。市民のためには市民から恨まれることも厭わないという捩れたヒーローは、彼の優柔不断さの所存であり、それゆえに恋人さえ失ってしまうという皮肉。さらには、ジョーカーを追い詰めるためには、市民のプライベートを侵害してまで、ハイテクの禁じ手を平気で使う厚顔ぶり。この映画での彼の猛進ぶりは滑稽ですらある。ここでも、C・ノートンは、皮肉たっぷりに善人の裏に隠された闇の部分を白日の下に曝け出している。

この映画は、まさにC・ノーランの描く「善悪の彼岸」であり、彼の才能を余すところなく発揮した一大傑作である。

2008年10月17日 (金)

不可解なオークス判定に、桜の女王がきっちりと決着をつける。「秋華賞」

Photo  今年の秋華賞は、春の有力馬が故障なく勢ぞろいした。桜花賞馬レジネッタ、オークス馬トールポピー、ともに2着のエフティマイア、さらにオークス一番人気のリトルアマポーラ、桜花賞3着のソーマジック、ローズS快勝のマイネレーツェルにレッドアゲートまで。何よりもこのレースが重要なのは、直線一旦外へよれた後、二度にわたって急激に内に切れ込み数頭の進路を妨害しながら先頭に立ち、押し切ったトールポピーが降着にならなかったオークスの最終的決着戦だといえるからだ。3着だったレジネッタをはじめ、マイネレーツェル、ソーマジック、レッドアゲートなどは確実に大きな被害を被っていた。だからこそ、それらのメンバーが顔を揃えたのはなによりだ。

 レジネッタは、デビュー2戦目から2連勝の後、レースは安定していたものの勝ち味が遅く距離の壁などと思われていたが、小牧太の好騎乗で桜花賞を勝つと一皮剥けて名前通り女王の風格を見せるようになった。距離が不安視されたオークスでも、不利がなければ突き抜けていたような残念なレースだった。その後、夏の札幌で古馬に挑んだクイーンSでは、スローペースに惑わされながらも確実に2着に差してきた。阪神に戻ってのローズSでは、今度は重馬場に手こずりながらも勝ったマイネルから差のない3着。坂路での追い切りは時計も上々、単走でまっすぐに駆け上がってきた力強い動きからは調子の良さが十二分にうかがえる。ローテイションも理想的だし、ここは不動の本命だろう。名手小牧太とのコンビで人馬一体の女王ぶりを見せてもらいたい。

 対抗には、オークスの不利による9着は度外視で、Fレビュー、ローズSと2つのトライアルを制したマイネレーツェル。小柄ながら前にも行けて末脚勝負でも引けをとらないレースぶりは、淀の内回り2000メートルにピッタリだし、川田君との相性も前走を見る限り絶好のコンビという気がする。セイヴぎみの追い切りは気になるものの、ここもギリギリ頑張ってくれそうだ。ただし、当日の馬体重が400キロを切るようだとかなり心配だ。

 単穴には、桜花賞・オークスと期待を裏切り続けるリトルアマポーラにいま一度期待したい。夏場を休養してのぶっつけだが、追い切りと馬体重を見る限りは、充分に乗り込まれて臨戦態勢にあると見た。淀のコースは外回りの方が向いている気がするが、父タキオン譲りの瞬発力を見せてほしい。上位人気にはならないだろうから、幸四郎も今回はゆったりと乗れるだろう。

 以下注目は、距離が1F長い気もするがとにかく確実な末脚で、桜・樫ともに2着と堅実に駆けるエフティマイアと、ローズSでいよいよ本格化かと思わせたオディール。特にオディールは今週の坂路での2頭併せの追い切りが圧巻。舌を出して遊びながらも、相手に抜かせない余裕の走りが文句なくいい。大外枠ながら、安勝さんの一発があるかも。

 オークス馬トールポピーは、芝での追い切りでは先着したものの、かなり迫力に欠けて見えた。まだ、絞りきれておらず本調子には戻っていないのではないか。もう1頭、関東馬ソーマジックは、アマポーラと同じく休養明けだが、こちらは馬体がちょっと淋しい気がする。

【秋華賞】

◎レジネッタ

○マイネレーツェル

▲リトルアマポーラ

△エフティマイア

△オディール