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『沈まぬ太陽』全5巻、読破。 / サンヂョンプンニョム

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山崎豊子『沈まぬ太陽』新潮社、1999年

本日、ようやく読み終えた。

私がこの作品を手にしたきっかけは、
今年の8月12日、日航123便墜落事故から20年を迎えたからでもない。
今年4月29日の、JR福知山線脱線事故があったからでもない。
この作品が組合問題を扱っていることは以前から知っていたのだが、近頃、自分にも関わることと思ったので、興味があったのである。


この作品は、全5巻から成る。
第1・2巻―「アフリカ」篇
国民航空社員・恩地元は、労働組合の委員長として、利益優先主義の経営陣と真っ向から対立。そのため、カラチ(パキスタン)・テヘラン(イラン)・ナイロビ(ケニア)と、海外の僻地を10年にわたって盥回しにされる。
恩地と共に闘った行天四郎の裏切り、会社側の露骨な差別人事による組合分断工作・・・
家族との別れによる焦燥感と孤独が、恩地を追い詰めていく。
そんな折、国民航空の旅客機が連続事故を起こす・・・。


第3巻―「御巣鷹山」篇
ついに「その日」は、おとずれた。
1985年(昭和60)8月12日。
航空史上最大最悪のジャンボ機事故が発生、犠牲者は520名・・・
凄絶な遺体の検視作業、事故原因の究明、非情な補償交渉。
10年にわたる海外左遷に絶え、本社へ復帰していた恩地は、遺族係を命ぜられ、想像を絶する悲劇に直面し、苦悩する。


第4・5巻―「会長室」篇
「空の安全」を蔑ろにし、利潤追求を第一とした経営体質。御巣鷹山の墜落は、起こるべくして起きた事故だった。
政府は組織の建て直しを図るべく、新会長に国見正之の就任を要請。
国見は、絶対安全の確立と、分裂した組合の統合を果たすため、会長室を新設し、恩地を会長室部長に抜擢する。
恩地は、国見の真摯な説得に心動かされ、再び闘うことを決意する。
腐敗の構造が、次々に白日の下に曝されていく。国民航空は、今や人の貌をした魑魅魍魎に食い尽くされつつあった。
国見と恩地はひるまず闘いつづけるが、政・官・財が癒着する利権の闇は、あまりに深く巧妙に張りめぐらされていた・・・。



「国民航空」がどの企業をモデルにして描かれているかは、わざわざ言うまでもないだろう。

山崎氏によれば、この作品は「事実を取材して小説的に再構築」したものだそうだ。
「御巣鷹山」篇に関しては、登場人物の多くが実名であるし、123便墜落事故のドキュメンタリーと言って良いだろう。
そのため、私は実際にこの事故についての記憶がほとんどないにも関わらず、当時の惨状などが目の前に浮かんでくるようだった。

主人公の「恩地元」なる人物は、実在した人物、小倉寛太郎さんがモデルになっているそうだ。
(なお、小倉さんは2002年にご逝去されている)

一方、以前は恩地の盟友でありながら、海外左遷を機に彼の行動を妨害した「行天四郎」は、架空の人物であるらしい。
また、会長「国見正之」のモデルは(噂の?)カネボウ名誉会長・伊藤淳二氏である。

この作品は、一方に偏った視点から描かれている点や、事実と異なることが書かれているなどの批判を受けている。
確かに、その点は注意して読まねばならないだろう。

しかし、だからと言って、この作品を批判することに、何の意味があろう。
むしろ、現代の我々にも重要な問題提起をしていると思うのである。

日本社会全体を覆う、無責任体質。
マスコミのあり方も問われている。

そして何よりも、企業の体質の問題である。
利益をあげることが企業の目的であるのは、言うまでもない。
しかし、「消費者への貢献」も企業の社会的使命なのであって、その視点が欠けた利潤追求の姿勢は、危険である。

ところが、自社の社員を蔑ろに扱う企業、社員が自由に発言できない企業からは、「消費者への貢献」「顧客満足」といった態度が育ちにくいのではなかろうか。
なぜなら、社員も顧客も、同じ人間であるから。

特に、「多くの人の生命を預かり、何よりも人間愛を優先しなければならぬ企業であるならば、その非情は許されないことであり、まさに人間の破壊というべきである」(山崎氏のあとがきより)。

もし、日本社会の体質が、そのことをしっかり認識し、責任の所在を明確にできるものであったならば・・・。


御巣鷹山事故の真相は、外交的配慮もあり、闇に葬られた。
20年経っても、遺族の方々の悲しみは、癒えることはない。

それどころか、悲劇は繰り返される。
1991年の信楽高原鉄道列車衝突事故、そして、今年のJR福知山線脱線事故・・・。
無辜の人々が犠牲にならなければ、安全の大切さを認識してもらえないのだろうか。
だとすれば、これほど情けないことはない。

高層マンションの耐震強度偽装問題も、嘆かわしいことだ。


さて、話を戻そう。
主人公の恩地元は、正義感が強く、どんな苦境にさらされても決して節を曲げない人物。
一方の行天四郎は、常に権力者の顔色を窺い、自らの保身と利権に汲々とする「魑魅魍魎」の代表的な存在だ。
『沈まぬ太陽』は、この2人の対照的な生きざまが描かれているが、これを現在の我々に当てはめて見れば、
この世の中には、「魑魅魍魎」がいかに多いことか。

いや、自分ですら、恩地元のように生きることは難しく、
結局は、心のどこかに蟠りを感じながらも、行天のような生き方を選択してしまうのでは、と思う。

今こそ、「恩地元」の存在が必要とされているのだけれども、待っていても「恩地元」は出て来ない。
人任せの態度こそ、無責任・無関心の始まり。
自分たち一人一人が、「恩地元」のように生きる自覚を持たねば、この世の中は変わらない。

今さらのように、反省した。



どうやら、今年最後のエントリになりそうだ・・・。

2005年12月31日(土) at 23:40 

このエントリ(記事)へのコメント

お邪魔します。 / 本人マーク(認証コメント)ほねたろう。 URL

TBありがとうございました。

この本を読んだのは、数年前に某航空会社職員の方から教えていただいたことがきっかけでした。
あまりにもショッキングな出来事ばかりで、それが実話ベースだということもあり吸い込まれるように読みふけってしまった記憶があります。
この会社にしてこの事故あり。
考えさせられた作品でした。

こちらからもTBさせていただきます。
2006年01月01日(日)   at 1:58

>ほねたろう。さん / 本人マーク(認証コメント)サンヂョンプンニョム URL

明けましておめでとうございます。
コメント&TB、ありがとうございます。

細かい点はともかく、職場環境などは描かれているのに近いのでしょうね。
だとしたら、恐ろしいことです。

JRの脱線事故も、何となく納得ができるような気がします。
2006年01月03日(火)   at 22:34

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墜落事故:読んで欲しい作品 / よく食べ・よく眠り・よく××!

なぜあの悲惨な事故が起こったのか。
機体の欠陥?
陰謀説?
様々な憶測が飛び交いながら、直接的な事故原因究明は事故調の疑問の残る調査結果によって幕を閉じた。
しかしながら、本当の原因というべき事実・・。
特殊法人の腐敗を題材に取り上げたこの一作を是非読...
2006年01月01日(日)   at 2:01

『沈まぬ太陽』 〜人間の腐敗〜 / 黄昏の屋上

『沈まぬ太陽』 全5巻 (山崎豊子,新潮文庫)
 『沈まぬ太陽』全5巻、今しがた読了。

 さて、どこから書こうか。読み終えた直後の熱気もあるが、あまりに強烈過ぎて、逆にタイピングが進まない。

 おお、そうだ。とりあえず、箇条書きで感想を書こう。こんな感想....
2006年05月10日(水)   at 22:09