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中島敦『山月記・李陵 他九篇』 / サンヂョンプンニョム

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中島敦『山月記・李陵 他九篇』
岩波文庫、1994年

急に読んでみたくなったので、手にした。
とは言え、とっくに読み終わっているのだが、感想が遅れてしまった。
本当に久しぶりの純文学。

「山月記」「李陵」は中島敦(1909−42)を代表する作品であることは言うまでもないが、本書はこれらを含めて11編の作品が収められている。

・「李陵」
主人公・李陵の複雑な心理描写は巧み。
司馬遷が登場するとさらにダイナミックに。
でも李陵のほうでは司馬遷の存在は大きな位置を占めていなかったようだが。
漢文調の文体はリズミカルでもあり、読んでいくうちにどんどん惹き込まれていく。
特筆に値する名作である。

・「弟子」
私は、孔子の思想や、それを扱った作品は非常に抽象的でとっつきにくいというイメージ(偏見?)を持っていたが、子路という1人の人物の生き方を通して描くことで、孔子の人間臭さも見せてくれる。

・「名人伝」
これも中国の古典に基づく作品。
冒頭は笑い話かと思ったが、そうではない。
一つの道を極めて境地に達すると…。

・「山月記」
高校の教科書では必ずと言って良いほど掲載されている作品。懐かしい。
「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」お馴染みのキーワード。
文章は短いが、やはり味わいがある。

・「文字禍」
これも最初は笑い話かと思ってしまうが、いろいろ考えさせられる作品。
所謂「ゲシュタルト崩壊」に関する描写も。

・「悟浄出世」
・「悟浄歎異」
前者が、沙悟浄が三蔵たちと出会う前、後者が三蔵と出会ってからの、彼自身の心の中を描いている。
もう1つの西遊記。

・「環礁」
筆者が、1941年(昭和16)南洋庁パラオ支庁に赴任した際、日本領にあったパラオ諸島での滞在体験をもとに描いたもの。現地の風俗を(筆者の偏見もあるが)伺い知ることができる。

・「牛人」
いや、これも、「牛と申します」の件で笑ってしまったのだが。
最後は本当に恐ろしいものだ。過去の生き方を顧みなければ。

・「狼疾記」
この主人公、良く言えば哲学的思索に耽っている、悪く言えば(肉体のみならず)精神的にも病んでいる。
恐らく、筆者自身を描いたものであろう。

・「斗南先生」
これも「狼疾記」の主人公と同じだから中島敦自身だが、
彼の伯父に対する思いや人となりなどを描いている。
ちなみにモデルとなった中島の伯父とは中島端という人である。


中島の作品では「山月記」と「李陵」があまりにも
人口に膾炙しているため、中国古典の専門家なのかと
私は思っていたが、そうではない。
祖父が漢学塾を経営していたという家系の影響らしい。


中島敦、この人は33歳という若さで夭折した。
そのため、彼が発表した作品はこの本に所収されているものも含めて、多くはない。
戦後だったらいかなる活躍をしたんだろうかということも考えてしまう。

しかし、それだけに、光彩を放つ作品ばかりである。

2007年8月4日(土) at 11:28