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『石油がわかれば世界が読める』瀬川 幸一 (編集) (朝日新書) / HN TASHKENT
本 > 歴史・ノンフィクション
バーカウンターでビールを呑みながら、何やら何時の間にか読了…という具合の一冊で、難しそうな題名の本である割に、非常に読み易い。そしてなかなかためになる内容でもある!
最近、石油関係の値上がりや穀物類の値上がりが続いている。私は、多分“世の中の主流”からやや外れた「やや年嵩ながら、地方のそのまた地方のような小さな街で、気楽な一人住まいを悠々と愉しもうとしている」というような具合で、物価情勢などは気に掛けない部類だが、それでも流石に気になってきた…
直接“石油”と見え易い部分で、個人的には灯油の値上がりが気になる。例年、秋の深まる前に「冬の灯油代」と「シーズンで10万円」というような“丼勘定”をして、結局4万円から6万円というシーズンがかなり続いていた。多少の増減は気にしていなかった…それが何時の間にか8万円から9万円という雰囲気になり、とうとう12万円というような按配になっている。少し前の“暖房シーズン”の間は「これって、何年か前の2か月分か、それ以上だよ…」と思いながら灯油代の請求書を見る程だった。私自身は、特別に広い訳でもないアパートに住んでいて、大きめな暖房器具は一つで、室温は無茶に高くしている訳でもなく、「居ないので暖房は止める」時間も存外あるので、友人や知人の間では灯油消費が少なめな部類ではあると思うが、それでも「たった2年、3年で倍位になっていない?」というような驚く程の値上がりである…90年代初頭にロシア辺りで見受けられたインフレでもないが、こんな具合に値上がりがあったのは、記憶が無い…
こういう状況になると、「どいう仕組みで灯油などが値上がりするのか?」とか、「環境!」などと“無意味”にさえ思える程にまで賑やかな昨今の情勢下、『石油がわかれば世界が読める』という本の題は「絶対読まなければならない!」という気にさせてくれた…
石油というものは今や“市況商品”だが、その値が決まる市場では、実際の石油消費の10倍以上の量の取引が成立しており、全貌不明の世界中のファンドの資金が蠢いているのだという…こういう状態に至るまでの歴史的なことにも本書は触れているが、なかなか読ませてくれた…
そして穀物…何か「“食い物”を燃料にするなどと言い出して、別な燃料を使ってトラクターを動かして農業をして…変じゃない??」という状況も見受けられるようだが、こうした問題への解説も分かり易かった…
そして所謂「眼から鱗…」な話しも存外多く紹介されている。「石油のような化石燃料を使うことは環境に好ましくない」とされるが、実は薪を使っていた時代よりも“石油時代”の方が余程森林は豊かであることなどが紹介されていた…
本書の末尾の方に「地球の寿命」というような表現がある。石油、或いは関連の深い天然ガスなどをうまく使い、新しい技術によるエネルギーも活用しながら、文明が存続を図っていかなければならないのだろうが、そういう今、本書のような知識は多くの人が得ておくべきである…
最近、石油関係の値上がりや穀物類の値上がりが続いている。私は、多分“世の中の主流”からやや外れた「やや年嵩ながら、地方のそのまた地方のような小さな街で、気楽な一人住まいを悠々と愉しもうとしている」というような具合で、物価情勢などは気に掛けない部類だが、それでも流石に気になってきた…
直接“石油”と見え易い部分で、個人的には灯油の値上がりが気になる。例年、秋の深まる前に「冬の灯油代」と「シーズンで10万円」というような“丼勘定”をして、結局4万円から6万円というシーズンがかなり続いていた。多少の増減は気にしていなかった…それが何時の間にか8万円から9万円という雰囲気になり、とうとう12万円というような按配になっている。少し前の“暖房シーズン”の間は「これって、何年か前の2か月分か、それ以上だよ…」と思いながら灯油代の請求書を見る程だった。私自身は、特別に広い訳でもないアパートに住んでいて、大きめな暖房器具は一つで、室温は無茶に高くしている訳でもなく、「居ないので暖房は止める」時間も存外あるので、友人や知人の間では灯油消費が少なめな部類ではあると思うが、それでも「たった2年、3年で倍位になっていない?」というような驚く程の値上がりである…90年代初頭にロシア辺りで見受けられたインフレでもないが、こんな具合に値上がりがあったのは、記憶が無い…
こういう状況になると、「どいう仕組みで灯油などが値上がりするのか?」とか、「環境!」などと“無意味”にさえ思える程にまで賑やかな昨今の情勢下、『石油がわかれば世界が読める』という本の題は「絶対読まなければならない!」という気にさせてくれた…
石油というものは今や“市況商品”だが、その値が決まる市場では、実際の石油消費の10倍以上の量の取引が成立しており、全貌不明の世界中のファンドの資金が蠢いているのだという…こういう状態に至るまでの歴史的なことにも本書は触れているが、なかなか読ませてくれた…
そして穀物…何か「“食い物”を燃料にするなどと言い出して、別な燃料を使ってトラクターを動かして農業をして…変じゃない??」という状況も見受けられるようだが、こうした問題への解説も分かり易かった…
そして所謂「眼から鱗…」な話しも存外多く紹介されている。「石油のような化石燃料を使うことは環境に好ましくない」とされるが、実は薪を使っていた時代よりも“石油時代”の方が余程森林は豊かであることなどが紹介されていた…
本書の末尾の方に「地球の寿命」というような表現がある。石油、或いは関連の深い天然ガスなどをうまく使い、新しい技術によるエネルギーも活用しながら、文明が存続を図っていかなければならないのだろうが、そういう今、本書のような知識は多くの人が得ておくべきである…
2008年7月5日(土) at 12:32
120冊以上… / HN TASHKENT
『ロシアン・ジョーク』酒井 陸三 (学研新書) / HN TASHKENT
本 > 歴史・ノンフィクション
ロシアが“ソ連”の旗を降ろしたのは1991年12月だった。もう少しで20年だ…1990年代には「ポストソ連」(ソ連の後)とでも呼ぶ他に如何ともし難い雰囲気が続いていたように思うのだが、2000年代になってから新たなアイデンティティー、存在感を確立してきているような感じがする。
こうした「この十数年間」に関して判り易くまとまった読み物で、「朝から夜までの開いた時間に頁を繰ると終盤に差し掛かる…」というような場合もある、「2、3日で読了可能な分量」の手軽なものは存外多くないような気がする…本書はその“存外多くない”ものの一つと言って好い、なかなか貴重な一冊であると思う。
ロシアの社会には、政治や社会の状況へのなかなかに痛烈な皮肉や風刺をも織り交ぜた“小話”―“アネクドート”と言う―が流布され、好ましくないかもしれない状況を笑い飛ばすという“伝統”のようなものがある。本書はそれを踏まえ、その種の話しを織り込みながら、ソ連の旗が降りる辺りから、エリツィン政権、プーチン政権の時代のロシアを解き明かそうとしている。なかなかに面白い。
実は私自身、1993年、1994年頃のモスクワを見知っているので「あれのことだな…」と直ぐ判る話しが多く、それ故に殊更にぐんぐん読み進むことが出来た、という個人的な事情があったのだが、それを割り引いて考えても、本書は「一番簡単な現代ロシアの経過」と多くの皆さんに勧めても好いような気がしている。
ロシアは国土面積の上でも人口の上でも、更に経済の上でも「大きな国」で、色々な情報も発信されていて、更に領土の一部が距離的にも近い―飛行機で1時間とか3時間というような、「北海道から九州や沖縄へ行く」より近い―のだが、日本では関係情報の量も不足しており、質も高い訳でもないかもしれない面がある。そうした意味で、ロシアに関しては「よく判らない」、「単に知らない」が広く深くなっているようにも思う。だからこそ、本書のようなものは貴重だ。
本書に関して瑣末なことを言えば…“極めて個人的な好き嫌い”だが、本書の文章は講演やラジオ番組のような型で著者が口頭で話すのを聴く分には好いのだが、活字として読む場合は若干違和感がある場合もあった…
こうした「この十数年間」に関して判り易くまとまった読み物で、「朝から夜までの開いた時間に頁を繰ると終盤に差し掛かる…」というような場合もある、「2、3日で読了可能な分量」の手軽なものは存外多くないような気がする…本書はその“存外多くない”ものの一つと言って好い、なかなか貴重な一冊であると思う。
ロシアの社会には、政治や社会の状況へのなかなかに痛烈な皮肉や風刺をも織り交ぜた“小話”―“アネクドート”と言う―が流布され、好ましくないかもしれない状況を笑い飛ばすという“伝統”のようなものがある。本書はそれを踏まえ、その種の話しを織り込みながら、ソ連の旗が降りる辺りから、エリツィン政権、プーチン政権の時代のロシアを解き明かそうとしている。なかなかに面白い。
実は私自身、1993年、1994年頃のモスクワを見知っているので「あれのことだな…」と直ぐ判る話しが多く、それ故に殊更にぐんぐん読み進むことが出来た、という個人的な事情があったのだが、それを割り引いて考えても、本書は「一番簡単な現代ロシアの経過」と多くの皆さんに勧めても好いような気がしている。
ロシアは国土面積の上でも人口の上でも、更に経済の上でも「大きな国」で、色々な情報も発信されていて、更に領土の一部が距離的にも近い―飛行機で1時間とか3時間というような、「北海道から九州や沖縄へ行く」より近い―のだが、日本では関係情報の量も不足しており、質も高い訳でもないかもしれない面がある。そうした意味で、ロシアに関しては「よく判らない」、「単に知らない」が広く深くなっているようにも思う。だからこそ、本書のようなものは貴重だ。
本書に関して瑣末なことを言えば…“極めて個人的な好き嫌い”だが、本書の文章は講演やラジオ番組のような型で著者が口頭で話すのを聴く分には好いのだが、活字として読む場合は若干違和感がある場合もあった…
2008年5月11日(日) at 14:59
『中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧』 水谷 尚子 (文春新書) / HN TASHKENT
本 > 歴史・ノンフィクション
北京五輪の聖火リレーを巡って、チベット関連の話題が伝えられる…こうした中で「中国の少数民族関係の問題」に何気なく眼が向いていたのだが、そういう中で本書に出会った。
「当事者の話しに耳を傾ける」というのは、何処か他所で起こっている事柄に関して学ぶ際に“最も基本的なこと”のように漠然と感じるが、本書はそれを愚直なまでに正直に実践している一冊だ。ウイグルを追われてしまった人達に対するインタビューを下敷きに、彼の地で起こっている様々な問題を語ろうとしているのである。
“国民国家”という概念がフランス革命の後に成立して以降の歴史では、「○○国の国民」というものを造ろうという営みが営々と続けられているのだと思う。そしてそういう営みの一部は一定の成果を得ているのかもしれないが、成果が得られていない場合も多く、それが今日の様々な紛争を生んでいる遠因になっているような気もする…例えば米国は、様々な国々や地域からの移民で国を興し、“アメリカ人”という概念を名実ともに成立させることにある程度成功したように見える…ソ連やユーゴスラビアは、“ソビエト市民”とか“ユーゴスラビア国民”という概念を成立させたかに見えたが、1990年代に「○○人の国」ということで連邦を構成していた各地域が独立国になって行った…旧ソ連地域でも多少あったが、ユーゴスラビアではその過程で深刻な紛争も経験する羽目になった地域さえある…
で、中国はどうなのだろう?残念ながら知識や情報に乏しい面もあるのだが…旧く中国を支配した王朝は、周辺の、今日の少数民族達との間に緩やかな主従関係的なものを築いて支配下に治めていた様子が伺えるが、現在の中華人民共和国政権は“一体化”を半ば強要して、弾圧的なことも行っている様子が伺える…今回、このウイグルを巡る一冊に出会い、そんなことを感じていた…
中国の少数民族の一つであるウイグルのこと…よくは判らないが、非常に衝撃を受けたのは核実験を巡る話しである…この本には、色々な事情でウイグルを離れた人達へのインタビューが載っている…私自身が一番衝撃を受けたのが、英国のテレビ局に協力し、核実験の実態に関する報道の制作に携わり、帰国出来なくなってしまった医師の話しだ…
その医師は、中国の主流を占める漢人系の人達がウイグル人に向ける差別的な目線や言動に不快感を感じたというような経験こそ有しているが、何か政治的な主張をするでもなく、医師として真面目に勤務していた人物だった。が、核実験に関係があると見受けられる症状に苦しむ事例がウイグルにあることに気付いていた。そして研究留学先のトルコで英国のテレビクルーと知り合い、取材を密かに手伝う…現在はその英国に亡命し、英国では医師の仕事が出来ないので、一寸苦しい暮らしになっているらしいが…
やや距離感を感じるかもしれないような事例だが、関連事項がニュースになって、何となく気になるというのはそれを学ぶ好機になるような気がする。ということで、話題のチベットではないが、「中国の少数民族関係」ということで、一寸お勧めしてみたい一冊である…
「当事者の話しに耳を傾ける」というのは、何処か他所で起こっている事柄に関して学ぶ際に“最も基本的なこと”のように漠然と感じるが、本書はそれを愚直なまでに正直に実践している一冊だ。ウイグルを追われてしまった人達に対するインタビューを下敷きに、彼の地で起こっている様々な問題を語ろうとしているのである。
“国民国家”という概念がフランス革命の後に成立して以降の歴史では、「○○国の国民」というものを造ろうという営みが営々と続けられているのだと思う。そしてそういう営みの一部は一定の成果を得ているのかもしれないが、成果が得られていない場合も多く、それが今日の様々な紛争を生んでいる遠因になっているような気もする…例えば米国は、様々な国々や地域からの移民で国を興し、“アメリカ人”という概念を名実ともに成立させることにある程度成功したように見える…ソ連やユーゴスラビアは、“ソビエト市民”とか“ユーゴスラビア国民”という概念を成立させたかに見えたが、1990年代に「○○人の国」ということで連邦を構成していた各地域が独立国になって行った…旧ソ連地域でも多少あったが、ユーゴスラビアではその過程で深刻な紛争も経験する羽目になった地域さえある…
で、中国はどうなのだろう?残念ながら知識や情報に乏しい面もあるのだが…旧く中国を支配した王朝は、周辺の、今日の少数民族達との間に緩やかな主従関係的なものを築いて支配下に治めていた様子が伺えるが、現在の中華人民共和国政権は“一体化”を半ば強要して、弾圧的なことも行っている様子が伺える…今回、このウイグルを巡る一冊に出会い、そんなことを感じていた…
中国の少数民族の一つであるウイグルのこと…よくは判らないが、非常に衝撃を受けたのは核実験を巡る話しである…この本には、色々な事情でウイグルを離れた人達へのインタビューが載っている…私自身が一番衝撃を受けたのが、英国のテレビ局に協力し、核実験の実態に関する報道の制作に携わり、帰国出来なくなってしまった医師の話しだ…
その医師は、中国の主流を占める漢人系の人達がウイグル人に向ける差別的な目線や言動に不快感を感じたというような経験こそ有しているが、何か政治的な主張をするでもなく、医師として真面目に勤務していた人物だった。が、核実験に関係があると見受けられる症状に苦しむ事例がウイグルにあることに気付いていた。そして研究留学先のトルコで英国のテレビクルーと知り合い、取材を密かに手伝う…現在はその英国に亡命し、英国では医師の仕事が出来ないので、一寸苦しい暮らしになっているらしいが…
やや距離感を感じるかもしれないような事例だが、関連事項がニュースになって、何となく気になるというのはそれを学ぶ好機になるような気がする。ということで、話題のチベットではないが、「中国の少数民族関係」ということで、一寸お勧めしてみたい一冊である…
水谷 尚子
Amazonランキング:9108位
Amazonおすすめ度:
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2008年5月3日(土) at 13:03
『ロシア闇と魂の国家』 亀山 郁夫,佐藤 優 (文春新書) / HN TASHKENT
本 > 歴史・ノンフィクション
ロシア関係の“業界”というのは存外狭く、何かで名前が売れている人どうしが「一寸面識がある…」というのは決して珍しくはない。ということで、本書で対談を行っている両氏が京都の大学で接点を持っていたというのは、「なるほど…」という程度のお話しであったが、“国策捜査”という用語を人口に膾炙させるに及ぶ著書を発表した元外交官と、ドストエフスキーの新しい翻訳がなかなか好評であるという文学教授の対談というのは、名前を見ただけで「?!」と期待させるものがある。そして実際に読んでみると、漠然とした期待以上のものがあったと思う。
或いは本書は「ロシアって?」というような次元の“初心者”には「敷居が高い」かもしれないと思いながら読んだ。喩え“何となく”程度であっても、一応ロシアの文物に関して、いろいろな角度で学んだとか、学ぼうとしたという“下敷き”がなければ、やや判り難い部分があると思う。私自身は『ロシア思想史―メシアニズムの系譜』というようなものを学生時代に読んでいたし、ロシア関係の研究モノには一定程度触れているつもりなので、「あれね…」と頷きながらページをどんどん捲ったのだったが…
本書は、“ドストエフスキー好き”が入り口となってロシア文学に関わり、色々と回り道をしてドストエフスキーに戻った亀山氏による、ドストエフスキーが作品で暗示しているような“魂”を解いてみようとしていて、そこにロシアの宗教や思想に明るく、最近20年程度の社会や経済のウォッチャーでもある佐藤氏が助太刀をして、“ロシア”という不思議な世界の“闇”に光を当てようとしている…という体裁であると思う。「魂が闇を吸い込み、また闇の中に魂が偏在するというイメージ」というのものが、本書を通じて考えることが出来ると思う。
正直なところ、私は“ドストエフスキー”というのは、「何か取っ付きの悪い、面倒なもの…」の代名詞のように思っているところがある…「思想の歴史」というようなことに多少の関心を寄せ、“ドストエフスキー”の“領域の周縁部”というような場所に足を踏み入れてみた経過はあるのだが、“真ん中”には未踏であるように思っている…本書は、その未踏の領域へのガイドブックになったかもしれない。
「色々と回り道をしてドストエフスキーに戻った」亀山氏は『カラマーゾフの兄弟』の翻訳を近年発表しているが、これに関しては自身もロシア語、文学、宗教、歴史の知識を有していて、“シビアな眼を持つ読者”である佐藤氏が本書の中で高く評価していた…本に掲載する対談の中という“社交辞令的要素”がほんの少しは混じっているのかもしれないにしても、これは「信じて良いネタ」だとは思う…「そのうち“カラマーゾフ”も…」などとも考えてみたりした…
或いは本書は「ロシアって?」というような次元の“初心者”には「敷居が高い」かもしれないと思いながら読んだ。喩え“何となく”程度であっても、一応ロシアの文物に関して、いろいろな角度で学んだとか、学ぼうとしたという“下敷き”がなければ、やや判り難い部分があると思う。私自身は『ロシア思想史―メシアニズムの系譜』というようなものを学生時代に読んでいたし、ロシア関係の研究モノには一定程度触れているつもりなので、「あれね…」と頷きながらページをどんどん捲ったのだったが…
本書は、“ドストエフスキー好き”が入り口となってロシア文学に関わり、色々と回り道をしてドストエフスキーに戻った亀山氏による、ドストエフスキーが作品で暗示しているような“魂”を解いてみようとしていて、そこにロシアの宗教や思想に明るく、最近20年程度の社会や経済のウォッチャーでもある佐藤氏が助太刀をして、“ロシア”という不思議な世界の“闇”に光を当てようとしている…という体裁であると思う。「魂が闇を吸い込み、また闇の中に魂が偏在するというイメージ」というのものが、本書を通じて考えることが出来ると思う。
正直なところ、私は“ドストエフスキー”というのは、「何か取っ付きの悪い、面倒なもの…」の代名詞のように思っているところがある…「思想の歴史」というようなことに多少の関心を寄せ、“ドストエフスキー”の“領域の周縁部”というような場所に足を踏み入れてみた経過はあるのだが、“真ん中”には未踏であるように思っている…本書は、その未踏の領域へのガイドブックになったかもしれない。
「色々と回り道をしてドストエフスキーに戻った」亀山氏は『カラマーゾフの兄弟』の翻訳を近年発表しているが、これに関しては自身もロシア語、文学、宗教、歴史の知識を有していて、“シビアな眼を持つ読者”である佐藤氏が本書の中で高く評価していた…本に掲載する対談の中という“社交辞令的要素”がほんの少しは混じっているのかもしれないにしても、これは「信じて良いネタ」だとは思う…「そのうち“カラマーゾフ”も…」などとも考えてみたりした…
2008年4月29日(火) at 11:09
『虚の王』 馳 星周 (角川文庫) / HN TASHKENT
本 > 国内小説
主人公の周辺の数日間が駆け抜けるように描かれている物語で、読み始めて続きが気になり、結局殆ど1日で読了してしまった一冊である…そして、読後に少々不思議な気分も残る…
“主人公”は“隆弘”ということで間違いないと思うのだが、読んでいると寧ろ彼が探し出して出会い、途中から行動を共にする“栄司”が寧ろ“主人公”のような気もしてくる…
“隆弘”は冴えないやくざの下で麻薬の売人をやっている若い男だが、彼らは「高校生が組織的な売春」という噂を聞きつけ、それを探って乗っ取り、自分たちの“シノギ”にしてしまおうと画策して動き出す。そんな中で、高校生達のボスである“栄司”が浮かび上がる。どうみても不良高校生でもない“栄司”が不思議と怖れられるのは何なのか?この辺が本作のタイトルで暗示されているもののような気がするが…
“隆弘”はやがて、上に居るやくざ達と抗争することになっていくのだが、詳しくは皆さん自身でお読みいただきたい…
何か“刹那”を必要以上に重んじるような生き方が交錯する現代の街の一隅を切り取ったような、独特な世界観の作品世界が疾走する様子が、なかなかに愉しい…
“主人公”は“隆弘”ということで間違いないと思うのだが、読んでいると寧ろ彼が探し出して出会い、途中から行動を共にする“栄司”が寧ろ“主人公”のような気もしてくる…
“隆弘”は冴えないやくざの下で麻薬の売人をやっている若い男だが、彼らは「高校生が組織的な売春」という噂を聞きつけ、それを探って乗っ取り、自分たちの“シノギ”にしてしまおうと画策して動き出す。そんな中で、高校生達のボスである“栄司”が浮かび上がる。どうみても不良高校生でもない“栄司”が不思議と怖れられるのは何なのか?この辺が本作のタイトルで暗示されているもののような気がするが…
“隆弘”はやがて、上に居るやくざ達と抗争することになっていくのだが、詳しくは皆さん自身でお読みいただきたい…
何か“刹那”を必要以上に重んじるような生き方が交錯する現代の街の一隅を切り取ったような、独特な世界観の作品世界が疾走する様子が、なかなかに愉しい…
2008年4月12日(土) at 18:09
『テロリストのパラソル』 藤原伊織 (角川文庫) / HN TASHKENT
本 > 国内小説
書店で手に取ると、テロ事件現場に居合わせた男が主人公で、事件を解き明かすような話しであることが表紙の裏の紹介で判り、「面白そう…」とこれを求め、一気に読了した。爽快と言えば爽快だが、何か哀愁めいたものもあり、なかなか面白い…
主人公は新宿の片隅で小さなバーを営む地味な男で、“アル中”である。起き出してから天候が好いと、中央公園に出掛けてベンチに腰を下ろし、ウィスキーを飲んでいる…そんな男の何気ない日常が、公園に轟いた爆音と逃げ惑う人々で騒然となった辺りから変わってしまう。ページを繰るに連れて男の横顔が徐々に明らかになり、この爆弾事件の核心に迫っていく…
本作は話しが丁寧に時系列を追って進み、“必然”として主人公の昔話が判り易く入っている。読み易い…実は最近、まったく別な作品でこの辺りが読み難いと思えたものに触れたので、こういう辺りに妙に感心したりしたのだが…
文学賞をダブル受賞という評価の高い作品であることは後から知った。私はある文学賞に関して、ほとんど毎回「受賞作は何かしっくりこない」というコメントをしている人が居る事例もあることから、それほど気に掛けないのだが、本作であれば「薦めたい作品」として賞の選考に携わる皆さんが推すのも理解出来るような気がする。最初は冴えない男が公園に出てきてウィスキーを呑むというような、どうでもいい話しだが、その男が“探偵”風な活躍を見せて事件の真相を明かす物語は単純に愉しい!!他方、この男が劇中での“今日”に至るまでの話しも、何か味わい深い…結末で犯人と対決するが、その場面の話しが何か重いものを提示しているような気もする…
テロリストのパラソル (角川文庫 ふ 20-1)
主人公は新宿の片隅で小さなバーを営む地味な男で、“アル中”である。起き出してから天候が好いと、中央公園に出掛けてベンチに腰を下ろし、ウィスキーを飲んでいる…そんな男の何気ない日常が、公園に轟いた爆音と逃げ惑う人々で騒然となった辺りから変わってしまう。ページを繰るに連れて男の横顔が徐々に明らかになり、この爆弾事件の核心に迫っていく…
本作は話しが丁寧に時系列を追って進み、“必然”として主人公の昔話が判り易く入っている。読み易い…実は最近、まったく別な作品でこの辺りが読み難いと思えたものに触れたので、こういう辺りに妙に感心したりしたのだが…
文学賞をダブル受賞という評価の高い作品であることは後から知った。私はある文学賞に関して、ほとんど毎回「受賞作は何かしっくりこない」というコメントをしている人が居る事例もあることから、それほど気に掛けないのだが、本作であれば「薦めたい作品」として賞の選考に携わる皆さんが推すのも理解出来るような気がする。最初は冴えない男が公園に出てきてウィスキーを呑むというような、どうでもいい話しだが、その男が“探偵”風な活躍を見せて事件の真相を明かす物語は単純に愉しい!!他方、この男が劇中での“今日”に至るまでの話しも、何か味わい深い…結末で犯人と対決するが、その場面の話しが何か重いものを提示しているような気もする…
テロリストのパラソル (角川文庫 ふ 20-1)
2008年4月12日(土) at 17:51
『完全分析独ソ戦史―死闘1416日の全貌』 山崎 雅弘 (学研M文庫) / HN TASHKENT
本 > 歴史・ノンフィクション
過日読了した『詳解西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919-1945』が興味深かったので、同じ著者の手になる独ソ戦の本を入手して読了したが、期待に違わない力作で興味深かった。
5月9日、ロシアはこの独ソ戦―彼の国の用語では「大祖国戦争」と呼ぶ…―の勝利を祝う。この祝日は「最大の祝日」という受け止め方をされているようだ。ロシアでは、軍人や民間人に多数の死者も出ており、おびただしい数の人が従軍しているので、戦争には「国民の9分9厘の一族が、何らかの型で関わっている」という状況である。1990年代前半の“ポストソ連”というような時期、「共産党政権を賛美する必要もないので、この記念日は殊更に大事にしなければならないものなのか?」という意見もあったようだが、前述のような事情があるので、「大きな戦争で尊い犠牲が払われてしまったことを悼み、ようやく掴んだ勝利から今日まで歩んだことに感謝するのが、何故悪いのか!?共産党政権だろうが、他の政権だろうが、そんなものは関係ない!!」という声がより多数を占めて今日に至っている。
独ソ戦には関心もあり、以前には『赤軍記者グロースマン 独ソ戦取材ノート1941−45』というようなものも読了している。本書はこういうもののような「生々しい現場記録」というものではなく、各陣営の大本営のような場所の目線で戦局の推移を追うという体裁になっている。
『詳解西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919-1945』にあっても「各陣営で成功と失敗が繰り返される」様が力強く綴られていたが、本書でも「2人の独裁者」の相違が解かれている。ソ連を指導したスターリンは、当初は「裏の裏の裏」位まで“深読み”をし過ぎて開戦時の対応で躓いてしまったが、やがて現場の将軍達の意見を尊重して「善きに計らえ…」で戦局を好転させた。そして“工場疎開”のような型で護った生産力が、そういう状況を後押しした。対するヒトラーのドイツ…戦争の当初、当時は先進的だった将軍達の部隊運用のお陰で連戦連勝だったものの、ヒトラー自身の思いや側近の面目で“無茶”が現場に押し付けられることが繰り返され、終いに収拾が付かない状態に陥ってしまう…この辺が鮮やかに説かれているのが面白い。
更に、ドイツとソ連との間では幾つもの有名な攻防戦があるのだが、そういうものに関しては結構な紙幅を裂き、豊富な地図を交えてあらましが詳しく判るようになっている。
「今更第2次大戦の歴史…」という感じもしないではない…が、本書にあるような大本営の姿勢を見ると「随分と示唆に富む…」という感じがする。勝ったソ連にも負けたドイツにも、各々毀誉褒貶があるのだが、負けたドイツに関する叙述には、示唆に富むものが多かった…新兵器への過度の期待や、現場を半ば度外視して“思い”を押し付けるような「極端に肥大化した最高指導部」というような問題…読後に凄く引っ掛かった…
或いは、模型のジオラマ製作をする際の種のように、この種のものを何となく読み進めるのも愉しいが、今日の世界、我が国、或いは更に身近な場所を思いながらページを繰るのも興味深いのかもしれない…
完全分析独ソ戦史―死闘1416日の全貌 (学研M文庫 や 5-3)
5月9日、ロシアはこの独ソ戦―彼の国の用語では「大祖国戦争」と呼ぶ…―の勝利を祝う。この祝日は「最大の祝日」という受け止め方をされているようだ。ロシアでは、軍人や民間人に多数の死者も出ており、おびただしい数の人が従軍しているので、戦争には「国民の9分9厘の一族が、何らかの型で関わっている」という状況である。1990年代前半の“ポストソ連”というような時期、「共産党政権を賛美する必要もないので、この記念日は殊更に大事にしなければならないものなのか?」という意見もあったようだが、前述のような事情があるので、「大きな戦争で尊い犠牲が払われてしまったことを悼み、ようやく掴んだ勝利から今日まで歩んだことに感謝するのが、何故悪いのか!?共産党政権だろうが、他の政権だろうが、そんなものは関係ない!!」という声がより多数を占めて今日に至っている。
独ソ戦には関心もあり、以前には『赤軍記者グロースマン 独ソ戦取材ノート1941−45』というようなものも読了している。本書はこういうもののような「生々しい現場記録」というものではなく、各陣営の大本営のような場所の目線で戦局の推移を追うという体裁になっている。
『詳解西部戦線全史―死闘!ヒトラー対英米仏1919-1945』にあっても「各陣営で成功と失敗が繰り返される」様が力強く綴られていたが、本書でも「2人の独裁者」の相違が解かれている。ソ連を指導したスターリンは、当初は「裏の裏の裏」位まで“深読み”をし過ぎて開戦時の対応で躓いてしまったが、やがて現場の将軍達の意見を尊重して「善きに計らえ…」で戦局を好転させた。そして“工場疎開”のような型で護った生産力が、そういう状況を後押しした。対するヒトラーのドイツ…戦争の当初、当時は先進的だった将軍達の部隊運用のお陰で連戦連勝だったものの、ヒトラー自身の思いや側近の面目で“無茶”が現場に押し付けられることが繰り返され、終いに収拾が付かない状態に陥ってしまう…この辺が鮮やかに説かれているのが面白い。
更に、ドイツとソ連との間では幾つもの有名な攻防戦があるのだが、そういうものに関しては結構な紙幅を裂き、豊富な地図を交えてあらましが詳しく判るようになっている。
「今更第2次大戦の歴史…」という感じもしないではない…が、本書にあるような大本営の姿勢を見ると「随分と示唆に富む…」という感じがする。勝ったソ連にも負けたドイツにも、各々毀誉褒貶があるのだが、負けたドイツに関する叙述には、示唆に富むものが多かった…新兵器への過度の期待や、現場を半ば度外視して“思い”を押し付けるような「極端に肥大化した最高指導部」というような問題…読後に凄く引っ掛かった…
或いは、模型のジオラマ製作をする際の種のように、この種のものを何となく読み進めるのも愉しいが、今日の世界、我が国、或いは更に身近な場所を思いながらページを繰るのも興味深いのかもしれない…
完全分析独ソ戦史―死闘1416日の全貌 (学研M文庫 や 5-3)
2008年4月6日(日) at 13:37
『間宮林蔵』 吉村 昭 (講談社文庫) / HN TASHKENT
本 > 国内小説
樺太(サハリン)が島なのか半島なのかというのが長い間判らなかったらしいが、間宮林蔵が探検して確認したのが1809年だという。来年で200年だ…
という話しを聞いていたことと、過日読んだ『林蔵の貌』が面白かったことが手伝い、本書を手に取ってみることにした…
かなり版を重ねた文庫である…読み始めると「“一寸前”風な書き方…」と感じたが、内容が良いので、やがてそういうことは気にならなくなり、林蔵の生きた時代に引き込まれている…
史料の隙間を創作しながら、間宮林蔵の業績を伝えてくれる作品である…「間宮林蔵とは?」と興味を抱いて問う人があれば、「これを是非読んでください…」と薦められる、なかなかよく出来た伝記小説であると思う。
劇中の林蔵は「決して地位が高くない農家の出で、ようやく掴んだ下級官吏として仕事に賭け続けた、職人気質な、そして少し不器用な男」として描かれている。なかなか魅力的であると思った。
間宮林蔵が生きた18世紀終盤から19世紀前半の情勢に関する、解説的な内容の叙述も多いが、これが大変に興味深い。それに該当する部分を抜き出してまとめるだけでも、なかなかに面白い本になりそうな位だ…“鎖国”の江戸時代だが、想像以上に外国との様々な接点があったことに少々驚く。
作品の冒頭は、択捉島でロシア艦との悶着が発生している場面から始まる。この場に林蔵は居合わせ、そこから彼の運命が動いていく。このロシア艦の悶着の件でロシアや外国に関する考え方を固めた林蔵だが、晩年に向かうに連れて考え方が微妙に変わってくる。この辺を読むのも面白い。
間違いなく“小説”という“お楽しみ”の本ではあるが、ある種の“参考書”的な情報をも備えている一冊で、多くの皆さんにお勧めしたい。
間宮林蔵 (講談社文庫)
という話しを聞いていたことと、過日読んだ『林蔵の貌』が面白かったことが手伝い、本書を手に取ってみることにした…
かなり版を重ねた文庫である…読み始めると「“一寸前”風な書き方…」と感じたが、内容が良いので、やがてそういうことは気にならなくなり、林蔵の生きた時代に引き込まれている…
史料の隙間を創作しながら、間宮林蔵の業績を伝えてくれる作品である…「間宮林蔵とは?」と興味を抱いて問う人があれば、「これを是非読んでください…」と薦められる、なかなかよく出来た伝記小説であると思う。
劇中の林蔵は「決して地位が高くない農家の出で、ようやく掴んだ下級官吏として仕事に賭け続けた、職人気質な、そして少し不器用な男」として描かれている。なかなか魅力的であると思った。
間宮林蔵が生きた18世紀終盤から19世紀前半の情勢に関する、解説的な内容の叙述も多いが、これが大変に興味深い。それに該当する部分を抜き出してまとめるだけでも、なかなかに面白い本になりそうな位だ…“鎖国”の江戸時代だが、想像以上に外国との様々な接点があったことに少々驚く。
作品の冒頭は、択捉島でロシア艦との悶着が発生している場面から始まる。この場に林蔵は居合わせ、そこから彼の運命が動いていく。このロシア艦の悶着の件でロシアや外国に関する考え方を固めた林蔵だが、晩年に向かうに連れて考え方が微妙に変わってくる。この辺を読むのも面白い。
間違いなく“小説”という“お楽しみ”の本ではあるが、ある種の“参考書”的な情報をも備えている一冊で、多くの皆さんにお勧めしたい。
間宮林蔵 (講談社文庫)







